出雲簡易裁判所 事件番号不詳 判決
主文
被告人を罰金三、〇〇〇円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金三〇〇円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。
被告人に対し、公職選挙法第二五二条第一項の規定は、これを適用しない。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、昭和三四年四月二三日施行の島根県知事選挙に際し立候補した桜井三郎右衛門のための選挙運動に従事したものであるところ、同候補者に当選を得しめる目的を以て、同年三月三十日頃、出雲市今市町なる島根県農業協同組合中央会出雲事務所において、同所職員松浦松人に対し、「県知事候補桜井三郎右衛門」と記載せる選挙用ポスターの選挙管理委員会の検印なきものを、検印のあるものと一括して、管内各農業協同組合宛配布方指示し、よつて、該指示に基き、松浦は、その頃別紙犯罪一覧表記載のとおり、選挙人たる簸川郡斐川村直江農業協同組合長水浩一外一四名に対し、右検印のないポスター合計三九枚位を発送するに至り、以て、右選挙運動のため、法定外文書を頒布したものである。
(証拠)(省略)
(法令の適用)
被告人の判示所為は、いずれも公職選挙法第二四三条第三号、第一四二条第一項に該当するところ、本件は、一箇の行為にして数箇の罪名に触れる場合に該当するから、刑法第五四条第一項前段、第一〇条に則り、犯情が最も重いと認めるべき別紙犯罪一覧表の番号1に該当する罪の刑を以て処断すべく、所定刑中罰金刑を選択し、その金額範囲内で、被告人を罰金三、〇〇〇円に処し、右罰金を完納することができないときは、刑法第一八条により、金三〇〇円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。なお公職選挙法第二五二条第三項により、情状により、被告人に対し、同法条第一項の規定は、これを適用しない。
(弁護人の主張に対する判断)
弁護人の主張を要約すれば、その趣旨は、(一)被告人は、農政協議会の指示、依頼に基き、たとえ、無検印ポスターでも、単に、室内に掲示するに止まるときは、制限違反にならないものと信じ、これを単位農業協同組合宛発送せしめたに過ぎないから、本件においては、違法の認識を欠き、犯罪を構成しない(二)又、被告人としては、室内の掲示を依頼すべく、本件無検印ポスターを発送せしめたのであるから、本件を以て、公職選挙法第一四四条に違反するというのなら格別、同法第一四二条第一項違反を以て問擬するのは当らないというに帰着する。併しながら(一)農政協議会から、本件無検印ポスターを送付して来た際、何等の依頼状もなく、又、配布先につき何等の指示もなかつたこと、而して、松浦に対し、配布方指示した際、これが配布先及び配布数は、被告人において、これを決定したものであることは、被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述に徴し明らかである。然らば、農政協議会の指示、依頼に基くということを前提とし、本件においては、違法の認識を欠くとの弁護人の主張は、これを採用し難い。(二)次に、無検印ポスターの掲示それ自体が制限違反となることは、言を俟たないけれども、右掲示を目的とする配布行為自体、掲示とは別箇の行為として評価されなければならないことは、これ亦疑をさしはさむべき余地がない。本件においては、室内に掲示するということは、被告人が松浦に対し、配布方指示するに至つた動機に過ぎず、苟くも、無検印ポスターが法定外文書である以上、これが配布をなさしめた行為につき、選挙運動のための文書頒布に関する制限違反としての責を免れることはできないのであるから、本件を以て、公職選挙法第一四二条第一項違反を以て問擬するのは当らないとの弁護人の主張は、これ亦採用し難い。
よつて、主文のとおり判決する。
(昭和三五年一月三〇日出雲簡易裁判所)
(別紙犯罪一覧表は省略する。)